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体験談

CASE1: 室井滋さんの前世退行
文藝春秋社発行 「CREA」 に掲載された記事です。

 

リクライニングチェアーに深く腰掛け、先生の誘導の言葉を聴きながら、 深い呼吸をしていくと自然にリラックスし、催眠状態へ・・・・

 

・・・・・・中略・・・・・・

 空の上から何が見えますか?

 丸いお城の屋根みたいのがいっぱいみえてる。赤とか緑とか、青いのも。光ってきれい。(私は右手の薬指でしきりに何か書いていたそうな。しかし自分の記憶にこれはない)

 何か見えますか?

 坂道。茶色い道。ヤギとおじさんがいる。

 どんな服を着ていますか。

 おじさんは白い服。

 何系の人ですか?

 アラブ。

 おじさんは何をしている人かわかりますか?

 荷馬車を引いてた。何か運んで置いてきた帰り。おじさん帰るところ。‥‥‥歩いてる。歩いておうち見えたきた。白くて大きい家、噴水あるよ。

 おじさんはお金持ちなんですか?

 ここで働いている人。のんびりしているよ。

 お家の中に誰かいますか?

 コックさん。

 奥さん?

 コックさん。

 コックさんの服は?

 白くって大きな服。

 他にどんな人がいますか?

 女の子。ホットケーキみたいの作ってもらっているの。きれいなお洋服着てる。

 その女の子はいくつですか?

 7つか8つ。

 なんという名前かわかりますか?

 ミリーちゃん(スラッと答える)。

 髪の毛と目の色は?

 髪の毛クルクルしてて‥‥‥目は灰色だよ‥‥‥(私のしゃべり方が,もしかしたら異様に子供っぽくなっていたのかもしれない) ここで先生は何故か言った。

 あなたはミリーちゃんなのですか?
(すると私は、「何言ってんだぁ?」というキョトンとした顔で答えたという)

 うん。そうよ。

 ミリーちゃん、お父さんやお母さんは?

 いるよ。アタシ、こっそりホットケーキ作ってもらっているから。

 こっそり?

 そう。

 ミリーちゃん、兄弟は?お父さんやお母さんは優しい?

 兄弟いないの。お父さん優しいけど、お母さんはホットケーキ食べると怒るよ。だから、いつもミリーちゃんこっそり‥‥‥。

 お友達はいますか?

 いるいる。ヤギ連れてるお友達。

 お母さんは何しているの?

 すましてる。きれいな服着てるから。

 お父さんはお母さんのこと好き?

 ちょっと好きかなあ?でも鳥のほうが好き。

 どんな鳥?

 喋る鳥.。孔雀みたいな羽根の。お父さんとっても可愛がってる。

 ミリーちゃんは鳥、好き?

 ヤギのほうが好きだよ。馬鹿だけど。孔雀みたいのはおしゃべりだから。

 お母さんはお父さんのこと好き?

 洋服のほうが好き!(キッパり)

前世の少女は、極めて退屈な結婚生活を送っていた会話はこんな風に続く。最初はおぼろ気に一生懸命何かを探すようなカンジで私は答えていたと思う。
しかし、次第に、ごく当たり前の日常の簡単なことを答える風に、スラスラ絵が浮かび,話せるようななった。
自分がミリーちゃんとして話すことに違和感がなく、すっかり子供の気分だった。
さて、その内だ。

先生が「ここで、少し大きくなりますよ。いいですか、5つ数えたら、ミリーちゃんは大きくなっていますからね」と言い、数を数えだした。ゆっくり、1,2,3 ,4,5‥‥‥と5つ数えたところで、パチンと指を鳴らす音がする。 私は25歳になっており,青い服を着て、なにやらパーティ会場にいる模様。ヒゲを生やした男性達や、きれいに着飾っている女性達が、皆、屋敷の中や 外でゴロゴロしている。そんな絵が頭の中に広がった。

 ミリーちゃん楽しい? 

 退屈 

 御馳走あるの?

 いっぱい食べて、もう何もすることがないの

 ミリーちゃんがいいなぁと思う人、いますか?

 全然。もうヤギも好きじゃない。今は石を拾うのが好き。きれいな石を‥‥‥。
目を閉じて、すっかり催眠状態に入った私は、おおよそ普段の私らしからぬことを言うのだ。気分はブルー。本当に退屈で退屈で,もの凄くつまらないのである。なぜかひとりでに何度も溜息をついてしまっていたらしい。
そしてさらにー。先生が5つ数え、再び指パッチンすると、私は10年先に進むのだった。

35歳の私は赤ちゃんをあやしていた。とても太って、昔とすっかり顔が変わっている。別人みたいだった。
「赤ちゃんの名は?」と聞かれると、私は即座に「ダダ。男の子でシュークりーム食べたがってる。お姉ちゃんがいて、ビビっていうの」などと言う。
「主人は髪が黒く目が茶色。ちょっと太っていて背も高く、ブカブカの丸っこいズボンをはいて。鼻毛を抜いてる。今は10世紀、バイオリン弾いてる人の傍らで鼻毛を抜いてるのよ。ヒマだから。大理石の白と海の青い色が眩しい。ポカポカ暖かくて、いつも昼寝してる。そしたら太っちゃたのよ、アタシ」
私は体の芯までホコホコしていて、ちょっぴり眠くて、体がダルかった。

催眠状態に入っている時は、ただ自分の現在だけを考える
「今、幸せなの?」という先生の声が聞こえてきて、私はちょっと考えてみた。
「‥‥‥でも、退屈。眠いの、いつも。寝ても寝ても眠いのよ。あんまりやることがなくって、つまらない。外にもあんまり出ないし‥‥‥」
ミリーは時々,ほんのたまにだが、砂埃の立つ、にぎやかな市場のような所に出かけて行ったりするのだった。店を見て、色とりどりの布や、髪飾りを買 ったが、そこには、いつもお決まりの見学コースがあるばかりで、何か刺激的なことが待っているわけではなかった。
私の耳には、先生の次々に質問する声がよく届いた。そして、それについて考えようとするたび、10世紀に生きたミリーという名の自分の日々が、とてもリアルなカンジで目を閉じている現在の私自身にせまってくるのだった。
お腹いっぱいで、とても恵まれていた。 子供や夫をとても愛しているが、自分自身が好きかどうか、ミリーは時々考え込んでしまうようだった。
10世紀のアラブのどこかの国のお金持ちの生活や女性の暮らしぶりがどんなであったかなぞ、勿論現在の私は知らない。しかし、少し想像してみるに 、イスラームの女の人は、いつもベールをかぶり、外で顔を人に見せることはなかったろうし、極端に、閉鎖的な世界で生きていたのではないだろうか。 女性が外に出て働いたり、何か活発に行動するなどということは、きっと当時としては誰も考えもせぬことに違いないだろう。
だからミリーの喋っていることやダルイ感じは何となく辻褄があっている気がする。
ここが不思議なのだ。

私には、こんなことをひとつひとつ考えてから、ミリーという人物を寸時に演じたりはとてもできないからだ。 催眠状態に入っている時は、雑念がなく、何故今、自分がこんなことを言うのかなんてぇ疑念がまったく湧かないのだ。ただ自分(ミリー)の現在について考えているだけという訳なのだが‥‥‥。 

 

室井滋の前世、アラビアの少女ミリーが人生を振り返るミリー・・・・・・つまり前世の私は、経済的にも家族愛にもとても恵まれ、幸せに暮らしていたが、なぜか自分の生活がひどく退屈であると感じ、常にもの足りなく思う女性であった。
目を閉じて、まるで夢と現実の間をさまよっているかのようにフワフワした意識の中で、催眠状態の私は、先生の質問に答えていく。

 「今、いくつですか?」

 「48歳になりました」

 「楽しいですか?」

 「うん、やせたし舞う日歴史の勉強してるから」

 「ご主人は?」

 「実は家の敷地内に学校を建てたんですよ」

 「へぇ〜、ミリーさんはそこで何をしてるの?」

 「フフフ、私が校長先生なの。旦那さんはお茶を入れてくれたり、お金の計算をしたり」

 「前より全然いい。楽しいの。20kgもやせたし。・・・・・・でも、白髪増えましたけど・・・・・・」

48歳の日々のことを聞かれて、私は自分の気持ちがすごく軽くなるのを意識できた。
自分の過去の事を自分で喋っていくというこの状態・・・・・・催眠術には確かにかかっているのだけれど、完全に自分を客観的にみられなくなるわけではなかった。
喋りたくない事は喋らない事もできたし、それでいて、前世の自分の気分のようなものが身体の中からしみ出てくるような感じであった。
先生はさらに色々質問を続け、やがてこれまでとは違う、おごそかなトーンに変わって、こう言った。
「さて、それではこれから、ミリーさんの亡くなる場面に行きましょうね。1,2,3,4,5・・・・・・」
私の方も、ひとつ何か覚悟を決めるように大きく深呼吸をした。

 「何が見えますか?」

 「はい、丘の上の大きな木です。そこで私、本を読んでいるの。葉っぱの間から、光が入ってきて、それを見てたら、なんだか目が回ってきて・・・・・・ 今 、私は70歳で・・・・・・すぐそばで仲良しのヤギが・・・・・・ヤギが私のこと、見てます。耳鳴りがして、キーンとして,気が遠くなってきちゃ・・・・・・ったぁ ・・・・・・」

私はまるで自分が臨終の時の人の役を演じているみたいになって、息が苦しく、のどもつまる感じがあって、それでも必死でその状態と戦っていた。
そのうち、ミリーの身体から私自身がスーッと離れ、多分、魂のようなものだけが上昇したのだろうと思う。ミリーの亡骸を含めたすべての景色を真上か ら眺めているみたいな絵が、頭いっぱいに浮かんで、さらにそれがどんどん遠くなっていった。
「さぁ、ミリーさんの身体を離れましたよ。ここでもう一度、ミリーさんの人生を振り返って見てください。何かやり残したことはありませんか?」
先生がやさしく私に尋ねてくれた。
私は目を閉じたまま、はるか遠い、私の人生について、さらにもう一度思いおこし、考えてみた。

 「最初はつまらなくて、食べ過ぎて太っちゃって・・・・・・。でも後の方はやっとやりたい事が見つかったの。でも、ちょっと時間が足りなかったわね。そ れまでは毎日暖かくてボケッとっしてた。もっと違う何かになりたいと、私ずっと思ってた。街から出た事もなくって、いつも丘の上から遠い海の向こうを 眺めていたっけ」

 「時代的にも女性には難しかったんでしょうね。女の人は家にいるべきだと思われていたろうし。でも、学校できて良かったですね」

 「アタシもっと遠いところに行ってみたかったの。遠い国ではどんな事があるんだろう?・・・・・・だから、歴史の勉強してみたの」

ミリーの言葉はそれで終わった。
やがて・・・・・・。
  「上の方から光が差し込んで、徐々に今いる世界に戻りますよ。さぁ、私が10数えると、今現在この場所、この時間、つまりこの部屋に帰ります。
1,2,3,4・・・・・・」 と締めくくる声を聞いて、私は、20世紀末に東京に住むこの私、『室井滋』の所に戻ってきたのであった。

 


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